深まる秋の夜はテキスト科目で
——私の「芸術理論1/2」学習法(そして『芸術理論古典文献アンソロジー』読書のすすめ)

カテゴリー: コースサイト記事愉快な知識への誘い |投稿日: 2020年10月26日

大橋利光(芸術学コース教員)

みなさん、お元気でしょうか。いつまでも暑い暑いと思っていたら、あっという間に秋まっただ中です。芸術の秋、読書の秋、学問の秋をそれぞれに楽しんでおられることと思います。

ところで唐突ですが、このページをご覧いただいている本学通信教育課程の学生のみなさんにお尋ねします。テキスト科目の学習は進んでいますか? なかなか学習が進まない、という方も、おそらく少なくないのではないかと思います。
学生のみなさんならすでにご存じのことと思いますが、本学通信教育課程には、テキストを通じて自宅学習を行って単位を修得する「テキスト科目」と、Web上の動画講義や対面講義などに出席して単位を修得する「スクーリング科目」があり、卒業のためには「テキスト科目」「スクーリング科目」の両方を修得して、必要となる単位をそろえなければなりません。
そして、実際に学習を始めてみると、教室で出会った仲間と話し合いながら楽しく学べるスクーリング科目の学習ばかりが進み、ひとり黙々と進めなければならないテキスト科目の単位がたくさん残っている、という状態に陥りがちです。卒業生である私自身も、在学中は、どうしてもスクーリング科目の受講とその準備に追われて、テキスト科目の学習は遅れがちでした。なかでも、具体的な作品や作家があまり登場しない芸術理論系の科目は、どうしても敷居が高く感じがちで、なかなか着手できませんでした。「そうだ、そうだ」とうなずいておられる学生の方もおられることと思います。
そんななかで、あるとき、勇気を振り絞って(?)取り組んだのが、これから紹介する「芸術理論1」「芸術理論2」という科目です。履修する前は非常に難関だと思えて尻込みをしていたのですが、履修して単位を修得し、卒業したあとの今となっては、卒業論文に次いで自分の力になったと感じられる、思い出の科目です。

【図1】「芸術理論1」「芸術理論2」の紙のテキスト

【図1】「芸術理論1」「芸術理論2」の紙のテキスト

上の写真に写っている2冊の本(『芸術理論古典文献アンソロジー』)が、「芸術理論1」「芸術理論2」のテキストです。1は東洋篇、2は西洋篇です。
このテキストは、本学通信教育課程の在学中であれば、電子ブックで読むことができます。しかし、紙のテキストが市販されているので、紙の本がよいという人は、購入するとよいでしょう。このテキストは一般の書店で売られていますから、本学学生以外の方でも手軽に入手することができます。

さて、「芸術理論1」「芸術理論2」はそれぞれ、この分厚いテキスト(1冊当たり約400ページ……!)を読んで、テキストの内容に関連する課題に応じてレポートを提出した上で、期末の試験を受けるというものです。とてつもない難関であるように思えるかもしれません。そもそもこのテキストを通読すること自体が難行苦行だ、と恐れをなしている人もいるかもしれませんね。

しかし、そこは「案ずるより産むが易し」です。このテキストは東洋篇・西洋篇のどちらも48の章に細かく分かれていて、それぞれの章で1つの古典文献が紹介されています。1つの章は、おおむね8ページという分量です。その8ページの中に、文献と著者の紹介、解題、原文または現代日本語訳が収録されています。つまり、8ページを読めば1つの古典文献についての大まかな知識が得られ、さらに原典の雰囲気まで味わうことができる構成になっているのです。ですから、最初はこのテキストを開いて1日1章ずつ読み進めていけばよいでしょう。8ページ程度なら、少し時間を捻出してがんばれば、毎日読み続けることもできると思います。活字が大きめでゆったりとしたレイアウトなので、きっと読めるはずです。
最初のうちはよくわからないまま、やみくもに読み始める、という状態かもしれません。しかし、1〜2週間もすればペースがつかめて、1日2章、3章と読み進められるようになるでしょう。そうなれば、しめたものです。1章を読み終えた余勢を駆って、関連して気になったほかの章に目を通す、ということもできるようになります。そして2つの章、3つの章を比較したり、他の資料を参照したりしながら、テキストの内容を振り返ることもできるようになるでしょう。この過程を経ることで読解力は格段に高まり、知識の網の目もだんだん密になっていきます。

読み始める前はうんざりするほど分厚く大量に見えるテキストですが、逆に言えば、この分厚さがあるからこそ、さまざまな時代、地域、ジャンルの多様な古典文献を収録できているのであり、この分厚さだからこそ、いろいろな文献の間を行き来して比較しながら理解を深めることが可能なのです。量が多いことは、悪いことばかりではありません。
ですから、重要だと思ったところ、ふと気になったところには、どんどん印をつけたりメモをつけたりして、読み進めていくとよいでしょう(ちなみに電子書籍版のテキストでもメモや目印をつける機能があります)。最初は深い意味もなくつけた目印が、のちのち大きな意味を持ってくるという経験もできるはずです。私の場合は、このようにして当初の予想よりは時間をかけながらも、最終的には楽しんで48の章を通読することができました。
あとはレポート課題と期末のテストに臨むことになるのですが、この場面では、読み進めながら自分でつけた付箋が役に立ちました。レポート課題を事前に見ることができるので、この課題に関連する内容はどこに出てくるかをチェックしながら、課題を読解のヒントにして読み進めることができたのです。そしてそのことが、テストにも役立ちました。

ちなみに、もう少し具体的かつ学習技術的なことにも触れておくことにします。
先に述べたように、紙のテキストは1冊当たり約400ページという分厚いものです。最初は私も電子ブックで読んでいたのですが、あちこちの章を行き来するようになると紙のほうが便利なので、紙のテキストを使うようになりました。しかし、このテキストは厚手で少々硬めの紙質なので、テキストを開いたまま保持するのもたいへんです。
そこで私は、あえてガッ!と大きく開き、背表紙に折り目を入れました。それを細かに何本も入れて、ほぼどのページでも手を放して開いておけるようにしたわけです。こうすることでテキストを開くことへの心理的負担が減りました。片手がふさがっていてもテキストを読める状態になったわけで、飲みものを手にしながら読む、ということも可能になり、テキストに触れる時間が増えるという点でかなり大きな効果があったと思います。

【図2】細かに折り目を入れて開きやすくした背表紙

【図2】細かに折り目を入れて開きやすくした背表紙

その上で、気になるところには付箋を多用しました。学習していた当時は、色分けにもこだわっていたような気がしますが、それから数年を経た現在となっては、どの色の付箋が何を示しているのかは不明です(苦笑)。しかし、付箋があるページは、何かしら心の琴線に触れたところであるのはまちがいないので、付箋ははがさずそのままにしてあります。
付箋の効果は定かではありませんが、机の上で開きやすくなったテキストが身近に感じられるようになったことには、意外なほど大きな効果がありました。単にレポートに合格する、試験に合格するという以上に、テキストの内容まで身近に感じられるようになったのです。

【図3】気になる箇所があるごとに付箋を貼り付ける

【図3】気になる箇所があるごとに付箋を貼り付ける

先に述べたように、「芸術理論1」「芸術理論2」のテキストは、それぞれ48の古典文献を取り上げています。ということは、この2科目を履修し、この2冊のテキストを通読することで、東洋(日本を含む)・西洋にまたがる96もの古典文献に触れることができるわけです。そして、その内容が次第に身近に感じられるようになるのです。これは本当にすごいことです。
たとえわずか8ページの解説と現代日本語訳という形ではあっても、定評のある古典文献の原典に直接触れることは、貴重な体験です。いつ、どこで、誰が、何を、どのように論じたのかというイメージがつかめるからです。古今東西で芸術に関してどんなことが論じられてきたのか、その時代的、地域的、内容的な広がりと系譜も、大まかにつかむことができるでしょう。
そして、この知識と感覚をもとに芸術作品に接してみると、その作品が生まれた時代背景、その作品の成立を支える思想的背景が見えてくるようになるはずです。その作品の表現はどういう背景のもとに成立したのか。その表現に関わる営みは、それまでどのように積み重ねられてきたのか。それらをふまえることで、目の前の作品が挑もうとしたものが何かを読み解くことができるかもしれません。

このように、テキスト科目、とくに芸術理論系の科目に取り組むことには、非常に大きなメリットがあります。静かな秋の夜は、テキストとじっくり向き合うのに最適です。これまで尻込みしていた科目にも、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。
また、『芸術理論古典文献アンソロジー』について検索してこのページにたどり着いた方もおられるかもしれません。ぜひ本書をきっかけに、これまでとは違った芸術作品との接し方を体験していただきたいと思います。そして機会があれば、われらが学び舎、京都芸術大学通信教育課程ものぞいてみてください。


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