拈華微笑 2021 (2)

カテゴリー: 『雲母』について愉快な知識への誘い |投稿日: 2021年4月7日

武井美砂(芸術学コース教員)
雲母11月号図版@武井美砂
グッゲンハイム美術館(スペイン、ビルバオ):宇宙船のような建築と花でできた《パピー》
 

 皆さんはSNSをどの程度、ご利用されているでしょうか。私はメールとLINEは日常的に使用していますが、TwitterやFacebookなど個人の情報発信型メディアにはこれまでほとんど関心がありませんでした。ところが最近、Instagramには急に関心を持つようになり、いま確認したところでも105件のInstagramをフォローしています。この数が多いか少ないかは分かりませんが、少なくとも私にとっては今年の大きな変化の1つです。それでは何をフォローしているのかというと、私は友人知人のInstagramではなく、純粋にネット上で自分の関心のあるものを見つけてフォローしています。分野で見ると、やはり美術史関係のものが多く、次に植物関係、食べもの関係となっています。そこで今回は私が現在「新規投稿」を楽しみにしている美術史関係のInstagramについて、その活用方法も含めて少しご紹介しましょう。


 私がフォローしている美術史関係のInstagramには、またいくつかの細分類があります。まずは自分の研究に関するもの、次に美術館・ギャラリーのもの、そして紙や額縁など技法材料に関するものとなっています。ここでは1つ目と2つ目を見てみましょう。
 

 さて、自分の研究に関するものですが、これは私の場合は西洋の中世美術史研究ですので、Winchester Cathedralといった具体的な作品名以外では、#medieval art、#Romanesque、#illuminated manuscripts あたりを登録しています。そうするとヨーロッパ中の中世美術、ロマネスクの教会堂建築、彫刻、絵画、工芸作品などの画像が、毎日山のように送られてきます。Instagramの素晴らしいところは、作品細部の拡大写真が惜しみなく提供されてくる点です。とても簡単に行くことのできない山奥の小さな教会堂や、現地に行ってもアクセスできない高さにある彫刻やステンドグラスの細部、よく知っているはずの作品の思いもかけない部分の大写しが、スマホを開ける度に目に飛び込んでくるのですから、これはもう本当に楽しいです。もし皆さんがご自分の研究対象に関連するInstagramをまだご覧になっていなければ、作家名、作品名、所蔵先などでGoogle検索し、関係するInstagramを覗いてみて下さい。「#キーワード」でもいろいろ出てくるでしょう。今年のようにオリジナルの作品をなかなか見に行けないご時世では特にお勧めです。1つでも多くの作品をさまざまな角度から何度も見ることは、研究においても制作においても、きっと役に立つでしょう。
 

 次にお勧めなのが、ご自分の好きな美術館・ギャラリーのInstagramを登録しておくことです。展覧会情報、見どころポイントなどが自動的に送られてきますので、情報収集という点でまず便利です。そして美術館・ギャラリーのInstagramの面白いところは、送られてくる画像がそもそも作品の写真ですので、その図版の切り方、載せ方、トーンの調整などからInstagram担当者のセンスと技量が実にはっきりと分かってしまうことなのです。その結果、素晴らしい作品を山ほど所蔵している大美術館から驚くほどつまらない画像が送られてくる日もあれば、思いもかけない小さな美術館から珠玉の画像が送られてくる日もあります。後者の例としてはロンドンのウォレス・コレクションを挙げておきましょう。実際にこの美術館を訪れた時は天候も悪かったせいかそれほど感動しなかったのですが、Instagramの図版はトーンといい、接写の仕方といい素晴らしく、正方形の小さな画面が光り輝くようです。一方、驚きに満ちた画像を送ってくれるのは、スペインのビルバオにあるグッゲンハイム美術館です。宇宙船のような建築と花でできた《パピー》(写真)の取り合わせが何とも印象的な美術館ですが、ここのInstagramは撮影の時間帯、通行人の入れ込み方、ゲーリーの建築の見せ方など、いつも工夫が凝らされいます。この美術館は1997年の開館ですが、すでに007の映画やダン・ブラウンの小説の舞台にもなっています。
 

 作品のどこをどのように自分は見ているのか、作品のどこをどのように鑑賞者に見せたら良いのか、美術館・ギャラリーのInstagramには私たちの勉強となる多くのヒントが隠されています。ご自分の研究や制作のため、そして何よりも自分の目を磨くトレーニングとして美術史関係のInstagramを見ることをお勧めします。


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