目次を使って本を読んでみよう(テキスト科目学習のすすめ)

カテゴリー: コースサイト記事愉快な知識への誘い |投稿日: 2021年9月21日

大橋利光(芸術学コース教員)

みなさん、こんにちは。このところ、一気に涼しくなってきましたが、お元気にお過ごしでしょうか。
ところで先日、芸術学コースの先生方で集まって話し合いをした際に、「どうすればテキスト科目にしっかり取り組んでもらえるだろうか」という話題になりました。

学生のみなさんならすでにご存じのことと思いますが、本学の通信教育課程では、Web上の動画講義や対面講義などに出席して単位を修得する「スクーリング科目」だけでなく、テキストを通じて自宅学習を行って単位を修得する「テキスト科目」も履修しなければなりません。
実際に学習を始めてみると、「スクーリング科目」のほうは、授業をある意味でペースメーカーのようにして、どんどん履修を進めていくことができます。ところが「テキスト科目」のほうは、自分自身で予定を管理しなければならないので、どうしても履修が遅れがちになる人が多いようで、そのことが話題になったわけです。

1冊の本をいかに読み通すか

そのなかでも、芸術学コースでは必修となっている「芸術論I-1」という芸術理論に関する科目は、できれば入学した最初の年度に履修していただきたい科目なのですが、なかなか課題の提出までたどり着けない方も少なくないようです。
この科目では、まず、芸術論に関する指定の本を1冊読んでレポートを書くことが必要なのですが、そもそも抽象的で難しい内容の本を1冊読み通すというところに「敷居の高さ」を感じている方もおられるのではないかな、と思います。

もちろん大学生である以上、たくさんの書物を読んで学習し、研究することは避けられないわけですから、本を読むということ自体には、なんとかして慣れていただくほかないとは言えます。けれども、いわゆるスパルタ式のような、ただただ厳しく修練を重ねるだけというのではない方法で、ちょっとしたテクニックやツールの手助けを得ながら、「読むこと」への負担を少しでも軽減することができるならば、よいのではないでしょうか。

土方定一『日本の近代美術』を例に

そのようなわけで、少々前置きが長くなってしまいましたが、私が使っている読書のためのちょっとしたテクニックとツールを、ここでご紹介したいと思います。それは何かというと、すでにタイトルでネタバレなのですが、「目次」を有効活用すること、です。
ここでは具体例として、「芸術論I-1」の指定テキストではないのですが、土方定一『日本の近代美術』(岩波文庫、2010年[初出は岩波新書、1966年])を取り上げてみましょう。江戸時代中期から第二次世界大戦後、1960年ごろまでの日本の美術の流れを、見通しよくコンパクトにまとめた名著として名高い本です。この記事を書いている2021年9月時点では、残念ながら版元品切れの状態なのですが、旧版の岩波新書版も含めて古書店などではよく見かけますので、ぜひ手にとってみていただきたい一冊です(でも、岩波書店さんには、ぜひ重版していただきたいものです)。

【図1】土方定一『日本の近代美術』。日本の近代美術の流れを一望できる名著です。

【図1】
土方定一『日本の近代美術』。日本の近代美術の流れを一望できる名著です。

まずは「目次」を読み解いてみよう

さて、それではさっそく本書の「目次」(pp.6-7)を見てみましょう。本文部分に関する項目を抜き書きすると、次のようになっています(カッコ内は本文ページの数字)。

序章(9)
1 伝統美術と近代美術(21)
2 初期洋画のプリミティヴィスム(33)
3 岡倉天心と民族主義的浪漫主義(45)
4 黒田清輝と外光派(59)
5 日本画のなかの近代(83)
6 近代と造形(95)
7 日本画の近代の展開(123)
8 近代日本の彫刻(143)
9 社会思想と造形(167)
10 二十世紀の近代美術(197)
  一 日本におけるフォーヴィスム(198)
  二 日本におけるシュルレアリスムと抽象芸術(218)
11 戦後(235)

こうしてみると、洋画も日本画も、彫刻も、抽象芸術も含みながら、かつ、同時代の西洋美術との関わりもふまえながら、日本美術の歴史が描き出されていることがわかりますね。また、各章のページ数にも注目すると、9章以降、時代的には大正期以後の記述が厚くなっていることもうかがえます。扱うべき作品やジャンルの広がりが多様化していることもあるのでしょうけれども、9章のタイトルにもあるような「思想」の動きとの関わりが意識されていることにも注目できそうです。
このように、目次だけでもしっかりと眺めてみれば、その本の中には何がどのような順序で書かれているのか、筆者はどういうところに力点を置いているのか、といったことが見えてきます。
ただやみくもに1ページ目から読み始める、というのではなく、最初にこうやって目次を読み解いてみると、本の内容が頭に入りやすくなるということをイメージしていただけるのではないかと思います。

さらに詳しい目次を作る

そこで、さらにもう一歩進んでみましょう。
本書に「目次」として載っているのは以上の内容だけでしたが、ここでは、それよりもさらに詳しい目次を作ってみることをおすすめしてみます。
本書の本文には小見出しが細かに付けられていますので、その小見出しまですべて拾い集めた目次を作ってみることにします。ちょっとだけ根気のいる作業ですが、すべての小見出しとページ数のリストを作ってみたのが、こちらです。

【図2】小見出しと掲載ページを含めた詳細な目次リスト。

【図2】
小見出しと掲載ページを含めた詳細な目次リスト。

この目次だと、さらに具体的な作家名や団体名、流派の名称なども出てきます。章レベルの目次よりもさらにはっきりと、どこで何が述べられているのかをイメージできるようになりますね。
しかも、この細かい目次を作るためには、本を最初から最後まで前ページめくっていく必要があります。つまり、このリストができあがった時点で、きわめて「ざっと」ではありますが、すでに1回読み通した、ということになるのです。この本の「始め」も「中」も「終わり」も、すでに目にしたわけですからね。これで、少しは本書を身近に感じやすくなるのではないでしょうか。

細かく足跡を残す楽しみ

そして、この話には、実はもう少し続きがあります。
先ほどのリストの右側に、「読了日」という欄を設けています。つまり、この細かな小見出しごとに足跡を残すようにして、読み終えた日付を記録していくわけです。いわば「ラジオ体操の出席カード」のようなもので、「読了日」欄が埋まっていくにつれて、日付を記入すること自体がだんだん楽しくなってくるはずです。
さらに、これをもう少し工夫すると、ページごとに読了日を記入する、という方法も考えることができます。本の1ページごとにどのような内容を載せるのか、という一覧表を「台割表」と呼びます(より厳密な「台割表」の定義は少し違うのですが、そのことはここでは置いておきます)。その「台割表」を自作してみるわけです。Excelなどの表計算ソフトがお得意の方なら、少し工夫すれば、パパッとこういう表を作れるのではないでしょうか。

【図3】各ページごとに記載内容をリストアップした「台割表」。右には「読了日」の記入欄を設けています。

【図3】
各ページごとに記載内容をリストアップした「台割表」。右には「読了日」の記入欄を設けています。

ご覧いただくとおわかりかと思いますが、この「台割表」にも「読了日」欄を設けてあります。実は私の場合、この「台割表」と先ほどの詳細な「目次」を連動させていて、「台割表」で日付を記入した項目には、自動的に「目次」でも最終の読了日が表示されるようになっています。つまり、本を読んだら、「台割表」の読み終えたページに日付を記入するだけで、いつどの項目を読み終えたかが「目次」に自動で記録されていくわけです。これはなかなか楽しいです。

Happy reading! 読書を楽しみましょう!

私はこのようにして、時には500ページ以上もあるような重厚な研究書でも、コツコツと、あるいはチョコチョコと、記録を取りながら読み進めていくことができています。
しかも、読み終えた後には詳細な目次が残っていますから、それに目を通せば、読んだ本の内容を思い出すこともできますし、気になった箇所があればもう一度本を開いて再確認することもできます。論文などを書く際にも、かなり便利に活用することができます。

最初の話に戻りますと、芸術学コースの先生方の話し合いで、「どうすればテキスト科目にしっかり取り組んでもらえるか」という話題になったとき、私は、この「目次」と「台割表」を使った方法のことを思い出したのでした。おそらくこの方法は、学生のみなさんが本を読み、レポートを書く際にも役に立つのではないかと思います。ぜひ試してみていただければ、と思います。

秋の夜長で勉強に身を入れやすい時期でもありますし、どうぞこの機会に、しっかり集中してテキスト科目に取り組んでいただきたいな、と思います。


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