文献案内:吉見俊哉『博覧会の政治学──まなざしの近代』中公新書、1992年

カテゴリー: 過去サイトの記事 |投稿日: 2003年12月19日

佐藤守弘(本学講師)

 一八七三年、日本政府ははじめて公式に万国博覧会(於ウィーン)に参加した。その時の総責任者であった佐野常民は、報告書に言う。博覧会とは「眼目の教」──すなわち視覚的情報によって人々を教化する装置──であると。まさしくその通りで、博覧会の伝えたメッセージとは、時には国威の発揚であり、帝国主義イデオロギーであり、また時には消費文化の振興でもあった。一八世紀以来の博物学の伝統の上に成り立つ博覧会とは、近代における美術館、博物館の定型を作ったのみならず、百貨店や遊園地などさまざまな視覚文化を生みだした。社会学の見地から著者は、博覧会の起源からはじまり、日本への移入、都市への影響、帝国主義や消費文化との関わりなどを丁寧に跡づけていく。近代における最大の視覚文化の仲介者を知る上での必読書。

*記事初出:『季報芸術学』No.13(2001年8月発行)


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