展覧会紹介:江戸絵画を中心に:2014春〜

カテゴリー: 美術館・展覧会情報 |投稿日: 2014年4月29日

濱村繭衣子(芸術教養コース教員)

(…今回は、芸術教養学科の濱村繭衣子先生が、御専門の江戸絵画の展覧会を中心に御紹介くださいました。今春の江戸期の展覧会の充実ぶりに、改めて驚かされます。先生ならではのディープな内容をお楽しみください。)

みなさん、こんにちは。濱村です。
ゴールデンウィークに向けて展覧会巡りを計画している方もおられることでしょう。みなさんの中にはテキスト科目の「日本美術史」を勉強されている方もいらっしゃると思います。今回はなかでも最近話題になっている江戸時代の展覧会を中心にお届けしましょう。

《風神雷神図》勢揃い!

まずこの春の大きな見どころを。東京国立博物館の特別展において俵屋宗達の《風神雷神図屏風》が展示されていることは三上先生がご紹介下さった通りですが、この屏風は続く琳派の画家、尾形光琳・酒井抱一・鈴木其一が模写し、琳派の象徴となっています。現在、都内の美術館では、この琳派を代表する四人の画家による《風神雷神図》をすべて見ることができるのです。
光琳は東京国立博物館の常設展示室で、抱一は出光美術館(有楽町)の「日本の美・発見Ⅳ 日本絵画の魅惑」展において(前期展示、〜5月6日)、其一は富士美術館(八王子市)の「開館30周年記念・東京富士美術館所蔵 江戸絵画の真髄」(〜6月29日)で展示されます。八王子は少し遠いですが、(がんばれば!)ゴールデンウィークには一日で四作品すべてに会いにいくことも可能です。

 

《燕子花図屏風》の季節です

やはり琳派を代表する作品である、尾形光琳の傑作《燕子花図屏風》は現在、東京、根津美術館(南青山)に所蔵され、毎年燕子花の時期にあわせて公開されています(HPはこちら)
本年は4月19日から5月18日に、円山応挙の《藤花図屏風》とともに展示されます。両屏風の共演は根津美術館が現在の建物に改築される以前のことで、久しぶりの機会です。さらに近年注目著しい江戸琳派の画家、鈴木其一の代表作《夏秋渓流図屏風》もお目見えです。其一の屏風は一目見て瞠目せしめる大変印象深い作品です。
また同美術館の庭園の燕子花も展覧会期間に見ごろを迎えます。ホームページでは燕子花の開花状況を知ることもできますので、合わせて行ってみるのもよいでしょう。

 

かわいい琳派、中村芳中展(千葉、京都、岡山)

大坂、のちに江戸で活躍し、江戸時代における琳派の展開を考える上で重要な画家である中村芳中の展覧会が開かれています(「光琳を慕うー中村芳中」展)。芳中の作品は一目で芳中とわかる、おおらかで愛らしい魅力的な個性をもったものです。また、同展は琳派の画家としての芳中だけではない多角的な芳中像に迫るものとなっています。

同展は現在、千葉市美術館(4月8日〜5月11日)で、続いて京都の細見美術館(5月24日〜6月29日)、岡山県立美術館(9月26日〜11月3日)で開催されます。芳中単独の展覧会としては実質初めての展覧会といえます。これを機会に、光琳や抱一とは異なる「かわいい琳派」の世界にひたってみてはいかがでしょうか。
余談ですが、芳中描くところのモチーフはゆるキャラに通じるなんともいえぬおかしみがあります。ですので、グッズが大変かわいいです。

 

東京府中、春の江戸絵画まつり

東京、府中市美術館ではこの季節に江戸絵画の展覧会が開かれることが恒例となっています。毎年府中の江戸絵画展の開催されると、春がやってきたなあ、という気がします。昨年春の「かわいい江戸絵画」は評判となり、展覧会図録は書籍として発売されています。府中市美術館は図録の完成度の高さにも定評がありますので(作品解説は解説の域を超えた充実度です)、興味のある方は見てみて下さい。
今回は春のパンまつりならぬ、「春の江戸絵画まつり」と称して、「江戸絵画の19世紀」展が開催されています(〜5月6日)。北斎・広重・国芳ら浮世絵界の巨星たちが活躍したこの時代は、創造性にあふれた生き生きとした時代であり、文人画・洋風画でも多彩な魅力ある造形が生み出されています。江戸最後の花である19世紀の絵画をじっくり楽しめる展示です。

 

サントリー美術館、のぞいてびっくり江戸絵画

同じく江戸時代後期の絵画の楽しみを存分に味わえる展覧会として東京、サントリー美術館(六本木)で「のぞいてびっくり江戸絵画」展が開かれています(〜5月11日)。
江戸時代後期の日本には西洋文化の流入により、顕微鏡や望遠鏡など、それまでの日本人の視覚をがらりと変える機器がもたらされました。そうした流れのなかで遠近法が用いられた風景画や顕微鏡による拡大図がつくられ、鏡に写る映像や影絵への関心も広まりました。本展はこうした江戸後期の視覚文化の面白さを伝えるもので、そこには多分に遊びの要素が盛り込まれています。江戸後期の人々の旺盛な好奇心と遊びの精神にあふれた視覚世界を体感できるとても楽しい展覧会です。

 

探幽3兄弟(群馬)

群馬県立近代美術館では、「探幽3兄弟〜狩野探幽・尚信・安信〜」(4月19日〜6月1日)と題された展覧会が開催されます。狩野派繁栄の礎になったにもかかわらず、巨大な兄の存在に隠れて一般にはほとんど紹介されたことのなかった尚信・安信の画業を知る貴重な機会です。同展覧会はすでに東京、板橋区立美術館で開催されましたが、探幽という偉大な兄を持った二人の弟たちが、それぞれの立場でいかに自己の画業を切り開いていったのか、大変興味深いものでした。群馬会場は東京会場よりも広い空間に展示されますので、より多くの作品にふれることができます。

 

超絶技巧!明治工芸の粋(東京、静岡、山口)

東京、日本橋の三井記念美術館では、「超絶技巧!明治工芸の粋」が開催されています(〜7月13日)。同展は、静岡県三島市の佐野美術館(10月4日〜12月23日)、山口県立美術館(2015年2月21日〜4月12日)に巡回します。明治工芸は最近、雑誌やテレビでも頻繁に取り上げられるようになっているのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。明治工芸の極めて注目すべき点は展覧会名通り、その目をみはる技術力です。日本の工芸技術は江戸末期に頂点に達したといっても過言ではありません。明治に入りその技術は日本という極東の小国が諸外国と渡り合っていくための貴重な輸出品となりました。
この展覧会は国内ではほぼ初めての選りすぐりの明治工芸が一同に展示される機会です。安藤緑山(ろくざん)の本物と見まがうばかりのリアルな彫刻(ほんとにまじまじと見てしまいます!)など、驚きとワクワクの展示になっています。
明治の職人たちがたゆまぬ研鑽を続けた成果は、現代のわたしたちにも深い印象を残します。日本の「ものづくり」に関心が集まる今、先人たちの能力と熱意と努力をじっくり鑑賞していただきたいと思います。
なお、本展は5月11日の日曜美術館の、45分枠で扱われます。司会の俳優井浦新さんが実際に作品を扱うところなどが放映される予定で、見応えのあるものとなると思われます。5月31日(土)の「美の巨人たち」では、展覧会で展示される白山松哉(しらやましょうさい)作「日月烏鷺図蒔絵額(じつげつうろずまきえがく)」が、今日の一品として取り上げられます。白山松哉は日本漆工史上、もっとも繊細緻密かつマニアックな仕事をする蒔絵師とのこと。番組では肉眼では確認できないような細部にも拘る松哉の超絶技巧を見ることができます。行かれる機会を持てない方は、こちらで味わっていただければと思います。日曜美術館放映後の展覧会は混むことが必至です。行かれる予定の方は、できればその前に行くことをおすすめします。
また、同展はチラシに現代美術家山口晃さんの画が使われていて、とても楽しいものになっています。美術館のチラシコーナーなどで見かけられたら手に取ってみてください。

 

…展覧会をいくつも紹介されると、あれもこれも行きたい、行かなきゃ!と焦るような気分になられる方もいらっしゃるでしょう。実は私たちも追われるように展覧会を見に行っています。行きたい展覧会が同じ日にいくつも終わるときなどは、一日に詰め込んで展覧会巡りをするときなども。そうなると展覧会に行くこと自体が目的になってしまったりします。

ですが、展覧会で一番大事なのは、作品との出会いです。みなさんそれぞれの関心で、よりよいかたちでの新たな芸術との邂逅がなされることが最も大事なこと です。ご自分なりのペースで展覧会とつき合っていただきたいと思います。作品との出会いはいつも同じではありません。同じ作品であっても見るたびに新たな 発見があるものです。この講義を通じて、みなさんに作品とのよき出会いがあるよう願っています。


* コメントは受け付けていません。