田島恵美子(教員)
「ニセモノ」と聞くと、なんとなく、劣ったもの、残念なものといったイメージをもってしまうのではないでしょうか。ひとつには、「素晴らしいホンモノ」に対する「劣ったニセモノ」という見方を無意識のうちに前提としていることがあるでしょう。確かに、その存在は「ホンモノ」との関係性において成り立ちますが、それは単なる二項対立的な捉え方だけでは説明できない複雑さを孕んでいます。
池野絢子(教員)
三月、イタリアへの調査旅行で、北イタリアはロンバルディア州にある都市ヴァレーゼを訪問しました。ミラノから鈍行で約一時間、コモ湖の西側に位置する街です。ヴァレーゼといえば、エステ家の宮殿と庭園で有名ですが、今回の私の旅の目的は、街の中心部を見下ろす小高い丘の上にある一軒の瀟洒な邸宅、パンツァ荘でした。 その名を冠されたジュゼッペ・パンツァ・ディ・ビウモ(1923-2010)という人物をご存知の方は、ほとんどいないでしょう。彼は、イタリアでは有数の現代美術のコレクターであった人物で、とくにアメリカの抽象表現主義とミニマル・アートの膨大なコレクションを有していました。私は去年から、この人物に関心を持って調査を続けています。なぜか? というと、彼の現代美術に対するこだわりがとても独特だったから。パンツァは、作品の収集に情熱を傾けただけではなく、作品を「どこに、どのように置くのか」が重要な問題であると考えた、稀有なコレクターだったのです。その結果パンツァは、抽象的で幾何学的なアメリカの現代美術を、歴史あるヨーロッパ貴族の邸宅に展示することになります。
言葉を転がし、言葉を鍛え、言葉を磨く
梅原賢一郎(教員)
仏教書として難解とされている書物に、道元の『正法眼蔵』がある。読んで難しいばかりではない。編集のされ方によって75巻本や95巻本とされているが(ほんとうは100巻にしたかったのだともいわれている)、難解なうえに長大で、これを読みこなすに易しいといえば、だれからも不信の目を向けられるのがおちであろう。どうも、道元は、どこまでも厳格で禁欲的で、近寄りがたいというのがたいていのところである。
しかし、テキストを読むかぎり、ユーモラスな一面が伝わってくる。道元は、曲芸師さながらに、言葉を転がし、自由自在に操る。そこに、天性の遊び心さえ嗅ぎつけることができる。まずは、マジシャンぶりをご覧あれ。
加藤志織(教員)
2014年度の授業が間もなく終了します。日々の課題から開放され時間的にも精神的にも余裕がある時期です。そこで今回は本をお奨めしようと思います。あまりにも難しい内容の書籍は楽に読めませんし、堅苦しい内容でも気分転換につながりませんので今回は漫画を紹介します。 とは言え芸術にかんする知見が得られるように細野不二彦の『ギャラリーフェイク』(全32巻)を選びました。アニメ化もされたので、ご存知の方も多いことと思います。しかし1992年に第一話が週刊『ビッグコミックスピリッツ』誌上に発表され、2005年に長期連載が終了して以来、すでに十年近い時間が経過しているので、一度もこの漫画のタイトルを耳にしたことがない方もいらっしゃることでしょう。
熊倉一紗(教員)
2014年もあっという間に終わりを迎えようとしている中、皆さんレポート課題や研究論文に頑張って取り組んでおられることでしょう。今回の拈華微笑は、美術に関するレポートや論文を書く機会の多い皆さんにある書籍のご紹介をしたいと思います。シルヴァン・バーネット『美術を書く:美術について語るための文章読本』(竹内順一監訳、東京美術、2014年)です。
小林留美(芸術学コース教員)
2001年に始まった現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ」も、今年で第5回。申し訳ないことに、過去全てを見ているような忠実な観客ではないのですが、今回、何年かぶりに行ってきました。アーティスティック・ディレクターが美術家の森村泰昌、というのに心をそそられた、というのが本当のところです。
金子典正(芸術学コース教員)
お元気ですか?まだまだきびしい残暑が続きますが、体調にはくれぐれも気をつけて何とかこの夏を乗りこえて欲しいと思います。さて、今回の私の拈華微笑は、昨年の同時期に掲載した文章をほぼそのまま引用します。これはスクーリング以外でなかなか皆さんとお会いできない私からのメッセージです。ぜひご一読ください。
三上美和(芸術学コース教員)
連休中初めて訪れた長崎では、復元された出島を楽しみにしていました。大学時代(相当昔ですね)、日本美術史の先生から、出島の復元が決まったことをうかがい、それ以来、よく知られている川原慶賀の出島の絵を立体にしたらどんなだろうと想像を膨らませていました。
そして当日、路面電車に揺られて数分して着いた出島は、思ったよりずっと規模の小さなものでした。現在、十棟の建物が当時の工法通りに復元されているのですが、中に入ってみると、ガランとした空間に当時の様子の写真や、発掘現場から出てきた生活用具等が展示されていたのも、勉強になる反面、やや興ざめな印象でした。
水野千依(芸術学コース教員)
この文章が届くころには新年度も始まり、瑞々しい新緑の季節になっていることでしょう。みなさんは、心新たに今年度の履修計画を立てていらっしゃる時期でしょうか。
もっとも、研究というのは計画通りにはいかないもの。そのもどかしさは誰しも経験されていることでしょう。私自身もこの数年、調査の機会を逃してきましたが、ようやく去る三月、まだ木々が芽吹きはじめ、寒暖を繰り返しながら春の訪れを待っていた時期に実現することができました。