三上美和(教員)

 たまたま同時期に開催されていた、六本木の泉屋博古館分館の「小川千甕展」と東京国立近代美術館の「片岡球子展」を見た。どちらの展覧会も画家の作風を丁寧にたどり、最新の調査が反映された充実した内容だった。51_1507  「小川千甕展」は閉幕間際の駆け込みだったが、これまで知らなかった多彩な作品と出会うことができた(今年の秋には京都文化博物館に巡回)。

三上美和(芸術学コース教員)

皆さんこんにちは。なかなか時間を作れず更新が遅くなってしまいました。でもなんとか滑り込みで最近見た展覧会をいくつか紹介します。内容は全く違いますが、いずれも意義深いものでした。

 

一つめは、府中市美術館の「東京・ソウル・台北・長春ー官展にみるーそれぞれの近代美術」。この展覧会の一番の意義は、開催に至ったこと、これに尽きると言っても過言ではありません。というのも、日本で最初の政府主催の展覧会、文展(文部省美術展覧会)に関しては、これまでも紹介されてきました。しかし本展のように、日本統治下の台湾、朝鮮、そして日本の強い影響下に置かれた満州でも開催されていた官立の展覧会と一緒に展観されたことはありませんでした。東アジアの近代美術という大きな視点で美術史を捉える新しい試みであり、日本、台湾や韓国の学芸員による共同企画という点も大変意義深いものです。

私としては、初めて知る画家、彫刻家が多く、充実した作品と出会うことができたのも収穫でした。詳細な図録も、今後の同様の展覧会の基礎となることでしょう。本展は府中市美術館を経て、現在は兵庫県立美術館に巡回しています(7月21日まで)。

拈華微笑2014(3):長崎で考えたこと

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日:2014年6月28日

三上美和(芸術学コース教員)

 連休中初めて訪れた長崎では、復元された出島を楽しみにしていました。大学時代(相当昔ですね)、日本美術史の先生から、出島の復元が決まったことをうかがい、それ以来、よく知られている川原慶賀の出島の絵を立体にしたらどんなだろうと想像を膨らませていました。

 そして当日、路面電車に揺られて数分して着いた出島は、思ったよりずっと規模の小さなものでした。現在、十棟の建物が当時の工法通りに復元されているのですが、中に入ってみると、ガランとした空間に当時の様子の写真や、発掘現場から出てきた生活用具等が展示されていたのも、勉強になる反面、やや興ざめな印象でした。

三上美和(芸術学コース教員)

 連休も終わり、新緑のまぶしい季節です。四季折々の花を眺めるのは楽しいものですが、花をテーマに作品を描いている画家にとって、天候、気温の具合でスケッチ旅行の日程が左右されるため、楽しいどころではありません。一度見逃すと次にスケッチできるのは一年後だから、天気予報とカレンダーをにらむ毎日。これは、先日お会いした日本画家の話です。この時印象に残ったエピソードを紹介します。

拈華微笑2012(3):最初は軽い気持ちで

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日:2014年4月3日

三上美和(芸術学コース教員)

 皆さんこんにちは。暑い夏も始まり、週末ごとにスクーリングにテキスト科目にと忙しくされている頃でしょうか。春からの学習計画通りの方もいればそうでない方もいらっしゃるでしょう。お恥ずかしい話ですが、私はまさに後者で予定通りにことが進んだことは滅多にありません。子供の頃から根気がなく、さらに運動神経も乏しかったため運動会は本当に辛く雨天中止を毎年願っていました(一度もそうなりませんでしたが)。

三上美和(芸術学コース教員)

皆さんこんにちは、教員の三上です。行く先々で桜に迎えられる季節となりましたね。以下、最近見た展示を紹介します。

世田谷美術館のある砧公園の桜はまだつぼみで、満開は会期終了間際になりそうですが、同館で開催中の「岸田吟香・劉生・麗子 知られざる精神の系譜」(4月6日まで、岡山県立美術館で4月18日から5月25日まで巡回)では、近代を代表する洋画家岸田劉生を軸に、その父吟香、娘麗子の活動を資料と作品でたどるものです。吟香は日本初の新聞を横浜で創刊し、起業家として活躍する傍ら、同時代の美術家たちとも盛んに交流しており、吟香が激賞した高橋由一《甲冑頭》や、山本芳翠の代表作《裸婦》、小林清親の浮世絵も同展の見所の一つ。劉生についても代表的シリーズである《麗子像》の他、初期の水彩画から晩年の風景画まで展示。さらにこれまでほとんど知られてこなかった麗子について、幼少期から晩年までを作品と資の料で丁寧に紹介。麗子が美術学校入学の夢を娘に託しつつ、明るい油彩画を生涯描き続けていたことなどを知ることができる貴重な機会となりました。

三上美和(芸術学コース教員)

 長谷川潔(1891 ~ 1980)はフランスで活躍した銅板画の巨匠です。今春開催予定だった「プーシキン美術館展」の中止で急遽「長谷川潔展」が開催されたためご覧になった方もいるかもしれません。

 本書ではこれまで銅板画の前段階とみなされがちだった初期の挿絵作品を詳しく論じた上巻、銅板画家として飛躍した時期の中巻、晩年の深淵な世界に至る下巻までを豊富な文献を駆使して論じられています。

三上美和(芸術学コース教員)

 美術史研究において、パトロン(保護者、後援者)や注文主を含めた受容者を視野に入れた考察は、近年様々な形でなされてきています。私もそうした観点から近代の日本画と工芸について研究しています。 もっとも、パトロンが美術の成立に重要な役割を演じてきたことは言うまでもありませんが、あくまで美術を取り巻く多様な要素の一つであり、美術史研究の中心にはなりえないかもしれません。しかし、今日の美術史はあまりに作品に集中しすぎており、より豊かな作品理解へと結びつくためにも、作品の背後にもっと目を向けるべきでは、という認識から編まれたのが本書です。