今月の一冊:浅井和春監修、稲本万里子・池上英洋編著『イメージとパトロン 美術史を学ぶための23章』 ブリュッケ、2009年

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2011年8月20日

三上美和(芸術学コース教員)

 美術史研究において、パトロン(保護者、後援者)や注文主を含めた受容者を視野に入れた考察は、近年様々な形でなされてきています。私もそうした観点から近代の日本画と工芸について研究しています。
もっとも、パトロンが美術の成立に重要な役割を演じてきたことは言うまでもありませんが、あくまで美術を取り巻く多様な要素の一つであり、美術史研究の中心にはなりえないかもしれません。しかし、今日の美術史はあまりに作品に集中しすぎており、より豊かな作品理解へと結びつくためにも、作品の背後にもっと目を向けるべきでは、という認識から編まれたのが本書です。
 本書は、『イメージとテキスト 美術史を学ぶための13章』(新関公子監修、稲本万里子、池上英洋編著、ブリュッケ、2007年)の続編として、東洋・日本美術史編と西洋美術史編に大別され、新たに多数の執筆者を加えて編まれたものです。タイトルからもわかるとおり初学者に向けられており、卒論や修論のテーマを決める参考となることが目指されています。
本書ではイメージとパトロンをキーワードにしながら、美術史上重要な作品や美術家が取り上げられ、最新の研究状況を踏まえた意欲的な論考がなされています。
 注目すべきは、各執筆者が結論を急がず、むしろどの作品にも未解決な問題が残されていることを力説している点。本書を手掛かりに、さらに研究を深めていってほしいという強いメッセージが発信されているのです。

*記事初出:『雲母』2010年6月号(2010年5月25日発行)


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