杉﨑貴英(芸術学コース教員)

 古都の風景にとけこむ青銅の巨像、鎌倉大仏(阿弥陀如来坐像、国宝)を訪れたことのある方は多いでしょう。唱歌「鎌倉」にもうたわれるこの「露座の大仏」は、鎌倉のランドマーク的存在です。しかし本書の冒頭で「意外なほどに基本的なことが分かっていないのである」と著者が記すように、また清水眞澄氏の『鎌倉大仏─東国文化の謎』〈有隣新書13〉(有隣堂、1979年)もその書名に題するように、さまざまな謎に包まれています。いつ? 誰が? なぜ? ──それを直接に語る史料は全くないうえに、尊名を釈迦と記していたり、先に完成した木造の大仏と現在の大仏との関係がよくわからなかったり、数少ない史料についてもどう整合的に解釈するかが問題となってきました。

石附啓子(総合教育科目・芸術学コース非常勤講師)

 大陸からの影響を受けつつ独自の発展を遂げ、日本美術にも受容されてきた朝鮮半島の絵画。しかし朝鮮半島の絵画とは何か? という疑問にすぐさま答えられる人は多くないだろう。ここに紹介する『韓国・朝鮮の絵画』は今、最も朝鮮半島の絵画に詳しい気鋭の専門家たちが最新の研究成果を交え、その魅力に迫った一冊である。本書は「高句麗壁画」・「高麗仏画」・「朝鮮王朝時代の宮廷画・文人画」・「朝鮮王朝時代の仏画」・「朝鮮王朝時代の民画」という章立てで、古代から近代以前までの朝鮮半島の絵画史が通覧できる構成となっている。

金子典正(芸術学コース教員)

 紀元前221年、中国を統一し、はじめて自らを皇帝と称した始皇帝は西安市の東約30キロにある始皇帝陵に葬られ、付近には1万体以上の地下の軍隊である兵馬俑が眠っている。こうした巨大な陵墓や万里の長城の造営、咸陽宮や阿房宮という壮大な宮殿の建設、そして焚書坑儒など、圧政を敷いた始皇帝は後に暴君と評され、司馬遷『史記』をはじめ、近年では咸陽宮における荊軻の始皇帝暗殺未遂を題材としたジェット・リー主演『HERO』を覚えている方もいるだろう。

吉田智美(芸術学コース非常勤講師)

 本書は、山水画というものが中国においてどのように誕生し、展開したのかを辿るものです。古来、老荘思想や神仙思想のもと信仰の対象であった山水は、やがてその美しさによっても人々の心を捉えるようになります。本格的に山水画というジャンルが確立されたのは10世紀ごろのことです。

塩澤寛樹(芸術学コース非常勤講師)

 今回は、7・8 月に東京で開講するスクーリング「日本美術史1b」(『芸術学コース専門教育科目シラバス』p.61 参照)を担当される塩澤寛樹先生に、去る2 月に上梓された『鎌倉時代造像論-幕府と仏師-』(吉川弘文館)についてうかがいました。

─「幕府造像」がご高著のテーマですが、その展開をどんな視点で4つに時期区分されたのですか?

平岡三峰子(芸術学コース非常勤講師)

 ただでさえ暑い盛りなのに三日間で数千年のインド美術史を急ピッチで概観する「アジア美術史3(インド)」のスクーリング教室は、毎年さらに加熱します。専ら宗教美術に関わる古代~中世美術の作品解説に先だって仏教やヒンドゥー教の成り立ちを手短に解説することになりますが、そこが思考回路オーバーヒートの危機的ポイント。受講生にコンパクトで扱いやすい参考書があればと常々考えていたところ、去年から今年にかけてインドから中国、朝鮮、日本さらに東南アジアやチベットまでも視野に入れた新アジア仏教史シリーズ(全1 5巻)が刊行されました。そのうち第1巻~ 3巻はインドの複雑で難解な思想史を理解する上で格好の手引き書となっています。

杉﨑貴英(芸術学コース教員)

 宇治平等院の鳳凰堂といえば、“平安貴族の浄土への憧れを今に伝える国宝建築” として、安置される阿弥陀如来像や雲中供養菩薩像とともにあまりにも有名です。そんな鳳凰堂についてのわかりやすいガイダンス・ブックかな…とも受け取れそうなタイトルですが、実は通説的な理解をトータルにとらえなおす、知的挑戦の書なのです。

三上美和(芸術学コース教員)

 長谷川潔(1891 ~ 1980)はフランスで活躍した銅板画の巨匠です。今春開催予定だった「プーシキン美術館展」の中止で急遽「長谷川潔展」が開催されたためご覧になった方もいるかもしれません。

 本書ではこれまで銅板画の前段階とみなされがちだった初期の挿絵作品を詳しく論じた上巻、銅板画家として飛躍した時期の中巻、晩年の深淵な世界に至る下巻までを豊富な文献を駆使して論じられています。

田島達也(芸術学コース非常勤講師)

 今回は、8 月27 日(金)~ 29 日(日)の3 日間、スクーリング「日本美術史2a」を担当される田島達也先生に、今月の一冊の紹介をお願いしました。

 私が専門としているのは日本美術史です。作品に即して真贋、年代、描かれている内容の研究などを行っています。なので、お宝鑑定みたいなものですと説明することもあります。しかし、実際にはテレビのようにものごとを断定的に述べるのは難しいものです。その一例として、最近出た古田亮著『俵屋宗達』を紹介しましょう。

柱本元彦(芸術学コース教員)

 これから「卒業研究」レポート1にとりかかる皆さんに一冊紹介します。樋口裕一著『ホンモノの文章力』(集英社新書)。アヤシゲなタイトルですが、書き方の実践(要するに一人ディベート)をこれほど単純明快に示した論文作文指南書は、わたしの知るかぎり他にありません。まずは開口一番、<文は人なり、自分の言葉で、ありのままに書け>といった科白の欺瞞を撃破して、筆無精を励ましてくれます。