今月の一冊:樋口裕一『ホンモノの文章力―自分を売り込む技術』 集英社新書、2000年

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2011年8月20日

柱本元彦(芸術学コース教員)

 これから「卒業研究」レポート1にとりかかる皆さんに一冊紹介します。樋口裕一著『ホンモノの文章力』(集英社新書)。アヤシゲなタイトルですが、書き方の実践(要するに一人ディベート)をこれほど単純明快に示した論文作文指南書は、わたしの知るかぎり他にありません。まずは開口一番、<文は人なり、自分の言葉で、ありのままに書け>といった科白の欺瞞を撃破して、筆無精を励ましてくれます。<おのれを白紙にして対象に向かえ、無心に目を向け耳を傾けよ>的鑑賞法に物申すのと同じですね。それはともかくさて、ご承知のように、論文とは、何かを主張してそれを証明することです。これを実践的に言えば、「論文とはある問題に対してイエスかノーかを答えることである。つまりイエス・ノーを問う問題提起をしてそれを論じれば論文になる」のです。わたしは<思わず膝を打ち>ました。たしかに。たとえば前書きによくある「○○について考えてみる。○○とは何だろうか。なぜ○○なのか」という言葉ですが、そうではなく、「○○は××であるのか」と書けと著者は言うのです。すると必然的に「その通りである」「いやそうではない」の二者択一の進路がひらき、明確な主張が生まれます。反対の立場とその論拠をしっかり把握してこれを論破していく、という筋も自然に流れるでしょう。問題は要するに素敵な問題提起を発見することだけなのです(つまり論文のオリジナリティは問題提起に宿ります)。がんばってください。

*記事初出:『雲母』2010年2月号(2010年1月25日発行)


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