前木由紀(芸術学コース教員)

 醜。醜いこと。醜さ。醜さを物語ること。どんなふうにして? この本でウンベルト・エーコは西洋文化における醜さをめぐる言説をおおよその時系列に沿って取り上げる。中世における「受難・死・殉教」、ルネサンス期の「怪物と予兆」、19 世紀の「不気味な者」などの側面を切り取りながら、それらをテクストの蒐集と分析によって解説してゆく。それは西洋史における醜さの「大全( スンマ)」である。(エーコがトマス・アクィナス研究から出発していることと、この著述のスタイルとの関連を勘ぐらずにはおられない)。

三上美和(芸術学コース教員)

 美術史研究において、パトロン(保護者、後援者)や注文主を含めた受容者を視野に入れた考察は、近年様々な形でなされてきています。私もそうした観点から近代の日本画と工芸について研究しています。 もっとも、パトロンが美術の成立に重要な役割を演じてきたことは言うまでもありませんが、あくまで美術を取り巻く多様な要素の一つであり、美術史研究の中心にはなりえないかもしれません。しかし、今日の美術史はあまりに作品に集中しすぎており、より豊かな作品理解へと結びつくためにも、作品の背後にもっと目を向けるべきでは、という認識から編まれたのが本書です。

金子典正(芸術学コース教員)

 「少年老い易く、学成り難し」という中国古代の漢文を日本語に読み下すことは一体いつ頃から始まったのでしょうか? その答えを教えてくれる一冊が今回ご紹介する大島正二氏の『漢字伝来』(岩波新書1031)です。大島氏は漢文などの中国語学を長年研究された方で、漢字が中国から伝来して日本語化した歴史を丁寧に解説してくれます。本書の内容は漢字が1世紀頃に日本に伝来したとされる福岡県志賀島出土の有名な金印の話から始まります。

米倉立子(芸術学コース教員)

 本書は、「近代美術のゆくえ」という近代以降の日本美術史を扱うシリーズの一冊ですから、本来ならば私がここ研究室だよりで特に紹介するにはふさわしくないかもしれません。しかし、美術あるいは美術史という概念や、モノをコレクションする美術館の確立の過程などの多様な切り口から論じられていて、日本美術を学ぼうとする方のみならず、受講者の皆さんそれぞれの関心に何かしら応えてくれるのではと思います。今まで断片的に知っていたり、感じていたりしたことが相互に繋がって改めて腑に落ちる箇所が多々あり、そこから新たな知見や関心へと繋がる楽しみどころの多い一冊でしょう。

小川佳世子(芸術学コース教員)

 昨年は「源氏物語千年紀」でしたが、本年2009年は「世阿弥発見百年」の年にあたります。と、いっても世阿弥が『源氏物語』より10分の1も現在に近い人である、というわけではありません。能楽を大成した世阿弥が『風姿花伝』をはじめとする数々の能の伝書を書いたのは室町時代、今から600年ほど前のことです。しかしそれらの伝書は書かれてからずっと、世間一般には知られることなく、能楽の家に相伝されてきました。

熊倉一紗(芸術学コース教員)

 早いもので、あとひと月もすれば年末。年末といえば、近年日本郵政の年賀状キャンペーンをしばし目にするが、その広告費は、民営化以前よりも格段に多いといわれている。確かに、前身の日本郵政公社は国営企業であり、民間企業のような派手な宣伝活動が行われてこなかったのも頷ける。しかしながら、今から辿ることおよそ80 年前の戦間期の英国では、国の省庁である逓信省(郵便事業と電信電話事業を管轄していた省庁)によって民間顔負けの宣伝活動が行われていた。

小林留美(芸術学コース教員)

 今回紹介したい『美学への招待』は、日本の美学会(1950年創設)会長を務め、“美学のプロフェッショナル”である佐々木健一によって、“これまで美学を学んだことのないひとを、この学問へと導く手引き”として書かれたものです。18 世紀半ばの西洋において、美と芸術と感性とを主題とする哲学として提起された、美学Aestheticsという学問の成立の状況を前提として第一章にまとめ、その後の7 つの章で、センス、ミュージアム、コピー、身体、等々をトピックにして、現代の芸術(実はこの言葉については、“藝術”と“アート”という2 つの用語を意識的に分けて使用していますが)を巡る様々なシーンを“日常的に抱く素朴な思想や疑問を手がかりに”解きほぐし、さらに最終章で近未来に向けての課題を描写するという構成を取っています。

大森弦史(芸術学コース教員)

 秋深まりゆく今日この頃いかがお過ごしでしょうか。11月に「近現代美術1b」を担当する大森弦史です。受講者の皆さんには、ひと足早くご挨拶を申し上げます。  さて今夏、島根県立美術館・横浜美術館を巡回した展覧会「フランス絵画の19世紀」をご覧になった方もいらっしゃることでしょう。タイトルからは、バルビゾン派やら印象派やらを連想してしまうところですが、アカデミズムに焦点を当てた珍しい構成でした。

高橋千晶(芸術学コース教員)

 テレビやインターネットなど映像の多様化が進むなかで、「メディア・リテラシー」という言葉が登場して久しい。「リテラシー」とは字義通りには「読み書きする能力」であるが、メディア・リテラシーでは、その意をもう少し広く捉え、現代の情報社会を生きる観者がメディアを主体的に批判・評価していく姿勢と定義されている。

今月の一冊:芸術学関係雑誌について

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日:2011年8月20日

杉崎貴英(芸術学コース教員)

 この「今月の一冊」欄、通常は新刊を中心に単行本をとりあげるのですが、年度始めにあたり、今回は芸術学関係の雑誌をいくつか紹介することにしました。 まず『芸術新潮』(新潮社、毎月25 日発売)。国内から海外まで、古美術から現代アートまで全般を対象とする雑誌です。話題の展覧会にスポットを当てたり、最近のニュースにちなんだりする毎号の特集は、読みやすくもボリュームたっぷり。芸術系大学に学んでいるからには、少なくともこれだけは毎月チェックしましょう。