今月の一冊:佐々木健一『美学への招待』 中公新書、2004年

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2011年8月20日

小林留美(芸術学コース教員)

 今回紹介したい『美学への招待』は、日本の美学会(1950年創設)会長を務め、“美学のプロフェッショナル”である佐々木健一によって、“これまで美学を学んだことのないひとを、この学問へと導く手引き”として書かれたものです。18 世紀半ばの西洋において、美と芸術と感性とを主題とする哲学として提起された、美学Aestheticsという学問の成立の状況を前提として第一章にまとめ、その後の7 つの章で、センス、ミュージアム、コピー、身体、等々をトピックにして、現代の芸術(実はこの言葉については、“藝術”と“アート”という2 つの用語を意識的に分けて使用していますが)を巡る様々なシーンを“日常的に抱く素朴な思想や疑問を手がかりに”解きほぐし、さらに最終章で近未来に向けての課題を描写するという構成を取っています。新書というコンパクトな形で「です・ます」調で書かれ、取り上げられる作品や作家の例もバランスよく、読むうちに自然とアクチュアルな美学の思索へと誘われます。巻末には簡便な文献案内もついていて、次の段階への有効な導きとなることと思います。
 ただ、これはあくまで、この著者による入門書であって、読者それぞれが自ら考えるための入り口です。テキスト科目『美学概論』のテキストもまた、その著者独自の思索の結果として著されたものです。この科目に取り組まれる方は、これまで漠然とこういうものだと思ってきた言葉の意味や事柄の見方とは異なった意味・見方を、その中に見出されるでしょう。テキストに性急な答えを求めることなく、自分自身で考える時間を大切にしてください。

*記事初出:『雲母』2010年6月号(2010年5月25日発行)


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