今月の一冊:大島正二『漢字伝来』 岩波新書、2006年

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2011年8月20日

金子典正(芸術学コース教員)

 「少年老い易く、学成り難し」という中国古代の漢文を日本語に読み下すことは一体いつ頃から始まったのでしょうか? その答えを教えてくれる一冊が今回ご紹介する大島正二氏の『漢字伝来』(岩波新書1031)です。大島氏は漢文などの中国語学を長年研究された方で、漢字が中国から伝来して日本語化した歴史を丁寧に解説してくれます。本書の内容は漢字が1世紀頃に日本に伝来したとされる福岡県志賀島出土の有名な金印の話から始まります。続いて古墳時代に朝鮮半島から漢字文化が伝わり、飛鳥時代には仏教伝来とともに漢文の学習が本格的に開始されて漢字文化が成立しました。そして奈良時代には『日本書紀』が漢文で撰述される一方で、漢字の訓読、訓点、また万葉仮名の使用や天皇の命令を漢字で日本語的にあらわした宣命書きも始まった経緯が詳述されています。つまり冒頭の中国漢文を日本語に読み下すルーツは奈良時代まで遡ることが分かります。そして最後に平安時代初期の平仮名や片仮名の誕生へと話は続きます。こうした言語の歴史を知ることは日本や東洋の美術史研究にとっても大変重要です。漢文の文献講読の授業は単に漢文を読む授業ではありません。古い資料には現代では忘れ去られた漢字の意味が多く含まれています。それらを解き明かすことが文献講読の目的であり、また造形の意味を読み解く手がかりにもなります。そうした点で本書は学問の基礎体力づくりとしてお薦めの一冊です。

*記事初出:『雲母』2010年11月号(2010年10月25日発行)


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