今月の一冊:別冊太陽『韓国・朝鮮の絵画』 平凡社、2008年11月、ISBN 978-4-582-94517-1

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2013年9月9日

石附啓子(総合教育科目・芸術学コース非常勤講師)

 大陸からの影響を受けつつ独自の発展を遂げ、日本美術にも受容されてきた朝鮮半島の絵画。しかし朝鮮半島の絵画とは何か? という疑問にすぐさま答えられる人は多くないだろう。ここに紹介する『韓国・朝鮮の絵画』は今、最も朝鮮半島の絵画に詳しい気鋭の専門家たちが最新の研究成果を交え、その魅力に迫った一冊である。本書は「高句麗壁画」・「高麗仏画」・「朝鮮王朝時代の宮廷画・文人画」・「朝鮮王朝時代の仏画」・「朝鮮王朝時代の民画」という章立てで、古代から近代以前までの朝鮮半島の絵画史が通覧できる構成となっている。これまでにも朝鮮半島の美術を紹介する書物は、美術全集や展覧会図録などが刊行されてきたが、絵画史を単独で扱った一般読者対象の企画は初めてである。韓国の研究者の論考や新出作品、日本では未だ馴染みの薄い「朝鮮王朝時代の仏画」も鮮明なカラー図版で紹介しており、研究資料としての価値も高い。

 本書は絵画史の紹介に留まるだけではない。古来、朝鮮半島の絵画は日本に数多く将来したが、日本でいかに受容されたかを具体的に示している点は画期的である。例えば、朝鮮王朝絵画の多くは、中国や日本の漢画系の画家に擬せられて伝来したが、それは中世より続く日本の唐物趣味の価値観を想起させる。中国画として認識された朝鮮画は、室町から江戸時代にかけて関東水墨画をはじめ、俵屋宗達、伊藤若冲といった画家の作品にも深く受容された。本書は、朝鮮半島の絵画を見つめることで、日本美術史、そして広くは東アジア美術の問題を一考させる
一冊である。

*記事初出:『雲母』2011年6月号(2011年5月25日発行)


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