今月の一冊:古田亮『俵屋宗達-琳派の祖の真実』 平凡社新書、2010年

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2013年8月20日

田島達也(芸術学コース非常勤講師)

 今回は、8 月27 日(金)~ 29 日(日)の3 日間、スクーリング「日本美術史2a」を担当される田島達也先生に、今月の一冊の紹介をお願いしました。

 私が専門としているのは日本美術史です。作品に即して真贋、年代、描かれている内容の研究などを行っています。なので、お宝鑑定みたいなものですと説明することもあります。しかし、実際にはテレビのようにものごとを断定的に述べるのは難しいものです。その一例として、最近出た古田亮著『俵屋宗達』を紹介しましょう。
 江戸時代の絵画には、琳派と呼ばれる一派があり、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一が代表的な画家で、彼らは時代を隔てて生まれ、直接の師弟関係はないけれど、芸術観・芸術様式を継承している…というのが日本美術史の「常識」です。近代美術史を専門とする古田氏はそれに異を唱えます。こうした琳派概念は近代、それも戦後に確立したものである。宗達は別格な画家であり、光琳はその本質を継承していない。宗達とよりつながりが深いのは、近代の今村紫紅であり、マチスであり、ジャズである、とたたみかけてきます。
 琳派なる概念が喧伝されてきた背景には、宗達や光琳らの芸術を個人の業績とするだけでなく、時を隔てて結びつけることにより、日本美術が持ち続けてきた「美的本質」のようなものを明らかにしたいという、研究者たちの意図があったように思います。古田氏の場合は、それを、時代や国籍やジャンルに帰属させるのではなく、逆に越境させることで一人の芸術家を持ち上げようとしています。美術史家の芸術観も、歴史の中で揺れ動いていることがよくわかる一書です。

 田島先生、ありがとうございました。スクーリングでのご指導、よろしくお願い申し上げます。

*記事初出:『雲母』2010年9-10月号(2010年8月25日発行)


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