文献案内:『中古文学』第79号〈学会創設40周年記念号〉
杉崎貴英(本学講師)
こんばんは。芸術学コースの杉崎です。
《中古文学》、つまりは古今和歌集とか伊勢物語とか源氏物語とか、とにかく大学の学科でいえば芸術学ではなく、国文学科(日本文学科)のあつかう領域です。しかし最近では、日本美術史研究と国文学研究の相互乗り入れもあるもので、私も雑誌の最新号が出れば目を通す習慣をつけています。
さて上記のシンポジウム記録には、基調報告として国文学以外の、次の2編が収められています。
【構成】はじめに/美術史学の現況/パレルゴン/物質性への帰還
【構成】一 はじめに/二 時代区分としての中古/三 学際的研究の問題点/四 平安時代史研究と中古文学/五 おわりに
佐野氏は主として平安時代絵画史や物語絵画史、東野氏は日本古代史(飛鳥〜平安)がご専門です。一読して収穫だったのは、佐野氏の発表では、それぞれの研究領域の現在の/これまでの動向が、東野氏の発表では、学際的研究・共同研究はどうあるべきかが、国文学という、異分野の学会においてだからこそ、明快に提示されていることでした。内容の要約に代えて、注意を惹かれた部分をいくつか抜粋して御紹介します。
佐野氏
「近年の美術史研究のもっとも大きな変化は、対象の格段の広がりである」
「(昨年刊行の論文を例示して)おそらくこのタイトルは、十年前であれば美術史研究とは思われなかっただろう」
「このような造形作品の生成を照射する研究、イメージの議論などが豊かな成果を挙げている一方で、とりわけこの1,2年、〈様式研究〉が再び盛んになってきたことも注目される」
「いかに文献学と感性の結合が可能か、を追究した日本の戦後美術史学第一世代。その研究蓄積をある種の閉塞として、開かれた美術史、大作主義へのアンチテーゼ、周縁の回復を目指した第二世代。そして造形を表象の意味世界として議論する第三世代。粗雑なまとめだが、二十世紀後半の(日本)美術史学の流れをこのように総括するならば、これら若い世代による(中略 研究成果)は、美術史学創成期を私に想起させる。ここには〈様式〉や〈主観〉に対する躊躇いはない」
東野氏
「(学際的研究・共同研究を行う場合)他分野から期待されるのは分かりやすい結論であり、なかなかその分野独自の考え方や分析方法にまで踏み込んだ議論にはなりにくい」
「(自分が奈良国立文化財研究所にいたときは)他分野の思考、分析がどのようなものであるかを、折に触れ具体的に垣間見ることができ、これはその分野での結論や成果を批判的に理解する大きな助けとなった。真に実りある学際的研究や共同研究は、他分野の手のうちを知ることから始まるのではあるまいか。
またその中で感じたことは、その学問独自の概念や方法の重要性である。それに固執することは、開かれた研究を模索する上に障害とはならず、そこに立脚した結論こそ、かえって全体の中でも意義を持つ」。