今月の一冊:「《特集》語りかける絵画―イメージ・テクスト・メディア」 雑誌『文学』(岩波書店)2009年10・11月号

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2011年8月20日

中野志保(芸術学コース教員)

 従来、美術史研究において、テクストは、視覚的イメージ(以下、「イメージ」とする)を読み解くための手段であり、他方、歴史学や文学史の研究において、イメージは、テクストを補足するものと捉えられてきた。しかし、本書は、イメージとテクストを「分離させて一対一対応で関係性を云々するのではなく、一体化させたうえで、問題群を論ずる方向を拓く、そのための方法論」を模索することを目的に編まれている。
 冒頭では、歴史研究者、文学史研究者、美術史研究者たちが集い、この問題について考察する座談会が開かれる。論者たちによる各々の研究事例報告と議論を通して、イメージとテクストを一体化させて「読む」ためには、「メディア論」すなわち表現媒体や情報伝達そのものについて考えることが重要だということ、つまり、イメージとテクストの2つだけを考慮すれば事足りるのではなく、それらのメディアが受容された場所や時代状況を踏まえることによって、はじめてメディアの意味の総体が見えてくることが提示される。
 以下では、座談会のメンバーを含む歴史学・文学史・美術史の研究者による、14の論文が掲載され、こうした方法論を用いた研究の成果が報告されている。興味深いと思ったのは、現時点では、こうした方法論の用い方が固定化しておらず、研究領域、或いは、研究者個人によって、研究方法とその成果が、多彩な在り方を見せていること。それゆえ、本書は、歴史的な観点から人文学を学ぶ人達にとって、方法論をはじめ、多彩な示唆を与えるものとなろう。
 美術史という研究領域に身を置く筆者にとっては、大西廣氏による以下の言葉がとりわけ印象深く心に残った。「(イメージを)社会関係の場のなかでトータルに捉えたい。となると、メッセージを発しているだけでなく、メディアとして行動しているというべきかもしれない。『絵画史料』というのとは違って、しかし絵画というメディアが歴史のなかで動いている、その働きを追求しようとする、これ自体が歴史研究なのだと考えています。」

*記事初出:『雲母』2010年1月号(2009年12月25日発行)


* コメントは受け付けていません。