今月の一冊:谷川渥『シュルレアリスムのアメリカ』 みすず書房、2009年

カテゴリー: 『雲母』について |投稿日: 2011年8月20日

小林留美(芸術学コース教員)

 『シュルレアリスムのアメリカ』というタイトルから、まず、どのような芸術家や作品を、またどのようなトピックスを連想するか、それはこの欄を読まれている皆さんの美術史的知識と関心とによって様々でしょうが、いずれにせよ、簡潔にして魅力的なタイトルには違いありません。そして、「つまるところ、本書はブルトンとグリーンバーグの言説を両軸として構成されるシュルレアリスム美術論であるといっていい」という序の一文が、端的に本書の主旨とその刺激的な論考とを示唆しているでしょう。1924年の“宣言”によってシュルレアリスム運動の端緒を開き、さらに主導した詩人アンドレ・ブルトンと、戦後アメリカ美術をその批評言語で牽引し、自らの書くモダニズム絵画史からシュルレアリスムを排した批評家クレメント・グリーンバーグ。序に続く章では例えばマグリッドやマッソン、ダリなどが、この対比的な二人の言説を参照しつつ、興味深い切り口から語られ、次いで「ニューヨーク・1942年」「シュルレアリスムと抽象表現主義」の2 章が、今まで日本では論じられることも少なかった雑誌や展覧会を解析し、マッタ、ゴーキーなどに言及しながら最後を締めくくります。
 著者は美学・芸術学を専門とする研究者で、『美学の逆説』(ちくま学芸文庫)『美のバロキスム』(武蔵野美術大学出版局)、雑誌『美術手帖』連載をまとめた『芸術をめぐる言葉』(美術出版社)他多数の著書があります。そういった美学理論と美術批評とをバックボーンに、具体的な資料と作品に即して実証的議論を展開したのが本書だと言えるでしょう。

*記事初出:『雲母』2011年1月号(2010年12月25日発行)


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