特別展 仁和寺と御室派のみほとけ

カテゴリー: 愉快な知識への誘い, 美術館・展覧会情報 |投稿日: 2018年3月1日

金子典正(教員)
 会期が残りわずかとなりましたが、上野の東京国立博物館では「特別展 仁和寺と御室派のみほとけ」が3月11日(日)まで開催されています。ツイッター「芸術学コースのつぶやき」でも少し書きましたが、今回の展覧会は仁和寺の至宝はもちろんのこと、全国の御室派の寺院のみほとけが大集合しており、大変見ごたえのある内容となっています。とりわけ大阪葛井寺千手観音像、兵庫神呪寺如意輪観音像、福井中山寺馬頭観音像など、秘仏として大切に伝えられてきた数々のみほとけが信じられないほど間近でじっくり拝見できることは大変有難い機会です。こうした充実した展覧会をみるたびに、大切なご本尊の出開帳をお許しくださったお寺さま、展覧会開催に至るまでの学芸員さんたちの苦労がひしひしと伝わってきて、改めてものすごいスケールの展覧会だと感じました。
仁和寺と御室派のみほとけ

 仁和寺の秘仏北院薬師の檀像彫刻の緻密さ、空海の真筆、仏教図像集『別尊雑記』、国宝孔雀明王像、そして仏像の和様化の出発点に位置づけられる旧御本尊の阿弥陀三尊像、どれも大変高い芸術性を備えています。立ち止まってじっくり鑑賞することは難しいものの、本当に見ごたえのある眼福このうえない時間を過ごすことができました。
 とりわけ、以前にお寺でお参りした機会はあったのですが、今回会場であらためてその素晴らしさに驚いたのが大阪葛井寺市にある道明寺の国宝十一面観音立像でした。普段の研究論文では書くことができない形容詞ですが、まさに「美しい」みほとけです。うっとりと見とれてしまうほど優れた造形感覚で彫られています。本当にズバ抜けた美しさです。像高99.4cm、榧材を用いた一木造、素地仕上げの見事な檀像彫刻です。穏やかで美しい表情でわたしたちを見つめ、奈良末~平安初期特有の張りのある肉付きをしています。身にまとった条帛や裙の衣皺はきわめて写実的、頭上の宝冠や瓔珞といった装身具の彫りは緻密で、こうした造形的特徴と瞳に黒い石をはめ込んでいることから、中国からの将来檀像との近しい関係が指摘されています。
 この仏像の作者や制作背景については資料が残っておらず詳細は不明ですが、やはりこの尋常ではない美的感覚と高い技術は当時の一流の仏師が関わっていることは間違いありません。道明寺がある土師の里は桓武天皇の生母高野新笠の母方の出身地であることから造像に皇室との関りが従来指摘されていますが、興味深いことに本像と非常に近い技法と造形感覚で彫られた仏像が、高野新笠が葬られた京都市西郊の大枝陵の近くに伝えられています。そうです、それは宝菩提院願徳寺の伝如意輪観音像です。この仏像も制作者、制作背景が不明の国宝の仏像ですが、道明寺の十一面観音像と同じように高野新笠に縁のある地の近くに伝えられているのです。と、ここまでは何となく分かっているのですが、ここから先がまだまだ未解明です。何か新しい資料や解釈が成立するなら、かなり面白い論文が書けると思います。いかがでしょうか、あなたがチャレンジしてみは?それでは、また次回!


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