拈華微笑2018(1):学びの方法論
田島恵美子(教員)
皆さんの中には、働きながら学ばれている方も多いと思います。中には、「社会人になってもまだ勉強しているの。すごいね。」さらに美術や芸術関係の勉強をしていると答えたなら、「勉強してどうするの? 何か資格でも? 」つまり、何の役に立つの? といったニュアンスを含む質問が返ってくる、といった経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一般的に、大学で学ばれる事は仕事では役に立たないと思われていることが多いようです。しかし、個人的な経験からいうなら、決してそんなことはありません。大学では、レポートあるいは論文という形で学びの成果をまとめますが、それは、「ある現象に対し問題点を見出して課題を設定し、情報を集め得た知識を消化しながら考えを深め、自分なりの答えを出す、さらにそれを他の人にわかるように説明する」という知的作業です。この一連の過程において、知識だけでなく、学びの方法論も身に着けることができます。この「方法」が、仕事や実生活においても応用可能なスキルとなります。
具体的には、情報を集めるためのフィールドワークの方法、発表や論文作成時に必要となる論証(論理的な説明)の方法などがありますが、他にも、例えば、「批判的にみる」という姿勢もひとつの学びの「方法」として挙げることができます。文献を読む際、書かれていることを「偉い人が言う事だから」と鵜呑みにするのではなく、「本当なのかな。こういう考え方もあるのでは。」と疑問をもちながら読むことが、自分なりの問いを見つけるためには必要です。仕事の現場でも、例えば何かしら改善を求められるような場面では、これまでのやり方を慣習や伝統を含めて批判的に見直すことが求められますし、テレビやネットの情報に対しても同様でしょう。
もうひとつ、汎用性の高い「方法」が、「対象を周囲の事象との関係性において理解する」というアプローチ法です。例えば美術史では、作品はそれ自体で自律して在るのではなく複雑な事象―作られた当時の文化的・社会的・政治的な様相、制作者側と注文主、受容側それぞれの事情など様々な事象が交錯した編み目の上に在ると捉え、その中でどのような関係において作品が成り立っているのかを考えますが、これは、仕事や身の回りで起こる事、人間関係などを考える際にも大いに有効です。作品だけでなく、世の中のあらゆる事象は周囲との関係の上に成立しています。「関係性」に目を向け読み解くことで、実際には目に見えていない、より本質的な問題に気づくことができ、よりよい解決につなげることができるでしょう。
大学の勉強で身に着けることができる学びの方法論は、知的生産のための技術であり、大学の外に出ても活用できる有用なスキルです。「方法」を意識しつつ日々の学習に取り組むことで、本学での学びをより実り多きものとしていただければと思います。