今月の一冊:アルバート・ボイム『アカデミーとフランス近代絵画』 森雅彦ほか訳、三元社、2005年
大森弦史(芸術学コース教員)
秋深まりゆく今日この頃いかがお過ごしでしょうか。11月に「近現代美術1b」を担当する大森弦史です。受講者の皆さんには、ひと足早くご挨拶を申し上げます。
さて今夏、島根県立美術館・横浜美術館を巡回した展覧会「フランス絵画の19世紀」をご覧になった方もいらっしゃることでしょう。タイトルからは、バルビゾン派やら印象派やらを連想してしまうところですが、アカデミズムに焦点を当てた珍しい構成でした。「近代」といった場合、マネ以来のいわゆるモダニズムばかりが取り沙汰されるのが常であるなかで、こうした展覧会が開催されるようになってきたというのは非常に興味深いことです。
『アカデミーとフランス近代絵画』は、アカデミズム再評価を促す大きな契機となった論文として知られており(原著は1971 年)、もはや近代美術史を学ぶ者にとっての必読書となっています。広範・膨大な資料を駆使しつつ、著者はモダニズムの源流を「時代遅れの」アカデミー教育のなかに見出しており、使い古された両者の対立モデルから脱却して、近代美術史にひとつの新しい地平を開拓することに成功しました。
学問全般に言えることではありますが、私たちが知っている「美術史」は、日々揺れ動いています。前述の展覧会はボイムのような研究が徐々に市民権を獲得してきた結果生まれたわけです。定説がいつまでも定説であり続ける保証はありません。ですから皆さんには常に批判的な姿勢で既存の美術史に対峙していただきたいですし、今度の私の講義に対しても、是非そうしていただきたいと願っております。…とはいえ、先人たちの遺産を正しく理解し吸収することはとても大事です。定説というのは、そう簡単に覆らないものですからね。
*記事初出:『雲母』2009年11月号(2009年10月25日発行)