拈華微笑2017(1):キュッパのはくぶつかん
田島恵美子(教員)
『キュッパのはくぶつかん』という絵本をご存じですか?
キャラクターグッズが販売されていたり、数年前にはこの絵本をきっかけとした企画展*もあり、すでに読まれた方もいらっしゃるかもしれませんね。キュッパという丸太の男の子が主人公の絵本ですが、ちびっこ向けと侮るなかれ、芸術を学ぶ人にとって、なかなか意味深い、示唆的なお話となっています。
森の小さな木の家で暮らすキュッパは、ある日、「ようし。きょうも おもしろいものを いっぱい あつめるぞ」と森へ出かけ、わくわくしながらたくさんのものを拾い集めます。家に帰ると、それら-葉っぱ、木の枝、松ぼっくり、傘、メガネ、釘、サイコロ、パイプ、鉛筆……等々を床に並べました。ガラクタばかりにみえますが、すべてキュッパがおもしろいと思ったものです。それからキュッパは、百科事典をみながら名前を調べ、分類し、ラベルをつけて整理しました。
しかし、それらたくさんのものをしまう場所はなく、困ったキュッパは、物知りのおばあちゃんに相談します。〈はくぶつかん〉をつくってみたらという提案に、キュッパは「わあ、おもしろそう!」と、さっそく準備にとりかかります。集めて調べて分類したものを家中に展示し、ポスターや看板をつくり、あちこちに知らせました。
開館初日、家の前には長い行列ができていました。キュッパは誇らしい気持ちになり、はりきって案内をします。「マカロニ」「すてきな なまえでしょ」。皆、うんうん、と頷きながら聞いています。時にはほめられたり拍手をもらったりしながら、しばらくは楽しく説明をしていました。
ところが数日も続けると、キュッパはうんざりしてきます。そして開館から1週間後、〈はくぶつかん〉をやめることにしました。キュッパは、展示物の写真を撮り、タイトルや説明をつけてアルバムをつくりました。つまり図録です。その後、キュッパは、集めたものを再び森の中へ戻したりリサイクルへ出したりして、〈はくぶつかん〉は閉館しました。
この絵本では、このように、キュッパの自然な欲求や好奇心を軸にストーリーが展開していきます。ここでは、現代の博物館で求められるような学術性や客観性は問題にされません。この〈はくぶつかん〉は、あくまでもキュッパ個人の感性でできており、そしてそれが自然に受け入れられているのです。ここに、このお話の核心があるように思います。今でこそ複雑に意味付けされ肥大化してしまった博物館ですが、その原点は、このような、人間の根源的なものに基づいた、もっとシンプルなものだったのではないでしょうか。
このお話には続きがあります。
キュッパは、手元に残ったもの―割れた花瓶や錆びた車輪、つかなくなったペン…等々を接着剤でくっつけて〈ゆかいなかざり〉をつくりました。キュッパはこのかざりを眺めながら考えます。「ひょっとして これが げいじゅつさくひんって いうやつなのかな? 」。机の上には「げいじゅつとは? 」というタイトルの本が置かれています。「ふわあ、このちょうしじゃ こんどは びじゅつかんを つくることになりそうだ」。
キュッパのつくる〈びじゅつかん〉は、どのようなものになるのでしょうか。
芸術とは何か? そして博物館とは? 美術館とは?
皆さんはどのように考えますか?